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■2014年3月15日に行われた北方山草会講演会の要旨(2014.3.30)
○講演I
 初めは荒川克郎氏による「日本の野生ユリの栽培」です。同氏は以前、百合が原公園にお勤めで、現在はガーデンリリーファームを経営されているユリ栽培のスペシャリストです。お話は会誌31号に書いたものの補足との断りで始まりました。会誌の「野生ユリの栽培」もご参照ください。
 まずは世界のユリの分布からです。ユリは世界に約110種ありますが、日本には14種が分布し、園芸種の親になるなど鑑賞価値の高い種が多いとのことです。地球的には北半球のみに分布し、中国の西部が分布の中心らしいとのことでした。
 次に雑種の話です。アジアティクハイブリッドは、日本を含むアジア極東に自生する多様なユリが親となりました。例えばアントシアニン系のマツバユリからピンク系が創出されています。オリエンタルハイブリッドは、日本の固有種からカサブランカなどが作られています。サクユリは花が大きく、貴重な原種となったことでしょう。日本は生育環境に恵まれており、ユリ王国と呼ばれるほど毎年大量に野生ユリを輸出していたとのことです。20世紀に入って1930年代まで毎年数千万球が輸出されたというから驚きです。種によって金や銀と同じ価値で取引されたこともあったとか。それが今はオランダから毎年2億球輸入している超輸入大国となってしまいました。
 栽培に興味がある方向けにユリの発芽法です。子葉が地上に伸びる地上発芽と伸びない地下発芽という形式があり、すぐに発芽する速発芽と休眠期間を経る遅発芽があるそうです。その組み合わせを知らないとタネをまいても「いつ発芽することやら」、となるようです。 ここで個々の種について説明がありましたが、道内自生種のエゾスカリユリだけ紹介します。本来の生育地である石狩市親船町の砂丘草原なども10年前より増加していますが、標茶などの舗装道路沿いに増えているとのことです。私も調べたわけではありませんが道路を走っていると、北見峠周辺とか温根湯辺りも目立つ気がします。張り芝に入って持ち込まれた可能性があると思われるものの、原因は謎とのことです。野生分布の撹乱が危惧されます。
 日本産、14種のユリの現状ですが、現在12種が各地で希少種に指定されており、タモトユリに至っては野生絶滅が疑われているそうです。幸い北海道のエゾスカシユリ、クルマユリは希少種になっていません。キバナノヒメユリは沖縄のいくつかの島にしかない黄花しかないヒメユリですが、自然公園に指定され保護されたため、かえって高茎草本が繁茂して被陰されてしまい、問題になっているようです。イシマササユリもたくさんあったのですが、最近減ってしまいました。雨が少なくなったことと、ガスを使うようになって燃料の刈り取りをしなくなったため、ユリに適した環境が少なくなり野生ユリを見る機会が少なくなっているようです。各地で野生ユリの保存活動として刈り出しなど人為的な環境整備も行われているとのことでした。

講演の後、質疑応答がありました。

Q道南のヤマユリは自生でしょうか。
A植えられたものといわれています。東北地方にはヒロハヤマユリが見られますが、道南産も葉が広く東北から持ち込まれたものと思う。積算温度が足りず、札幌では種子が成熟しませんが、松前辺りでは可能でしょう。
Qウイルス耐性について
Aウイルスには弱い。アブラムシを繁殖させないために殺虫剤を用い、感染個体の焼却で防除する。
Qオリエンタルハイブリッドは完熟前に霜が来るが、屋外で完熟させる方法は?
Aヤマユリは屋根を付ければ無加温でいける。春の芽出しを早くすることも有効でしょう。


○講演II
 続いては北海道大学植物園の谷亀高広氏の「日本の無葉緑ラン」です。同氏はランと共生するカビの研究者ですが、共生者のランにも非常に詳しく、日本中を駆け回っている方です。
 今日はランの生態、菌との共生の話ですとのことで始まりました。
 菌従属栄養植物は、昔は寄生植物とされたもので、生育に必要な養分供給の全て、もしくは大部分を菌 (菌根菌)に依存して生活している植物です。必ずしも光合成が重要でないため、薄暗い環境に適応する能力を獲得しています。腐生植物といわれることがありますが正しくないそうです。養分を菌のみに依存するものが無葉緑種、養分の大部分を菌に依存するが光合成も行うものは混合栄養性種と呼ぶとのこと。世界には880種もの菌従属栄養植物があり、そのうちラン科が180種です。日本に自生する菌従属栄養性ラン科植物は約15属45種とのことでした。
ラン科植物は日本国内に約90属、 約300種、全世界では約800属、25,000〜30,000種という大所帯です。ラン科植物の種子は小さく、胚乳を持たず、菌に養分を依存して発芽します。菌従属栄養の程度は種や成長段階ごとに差があり、菌との縁を切ったり、縒りを戻したりする種もあり興味深い生態があります。ラン型菌根の特徴は、ランが一方的に養分を菌から収奪するだけで、菌側には共生による利益はない片利共生である点です。マツとマツタケ(外生菌根菌)などはお互いに利益がある相利共生です。ラン科植物の共生系は腐生菌との共生と外生菌根菌との共生の2種類あり、1系統の植物で共生系が2つあるのは珍しいそうです。
 ここから、いくつかの種について具体的な生態の紹介がありました。
 オニノヤガラは共生菌が日本で最初に明らかにされた種です。共生菌は複数ありナラタケ菌のうち病原性が低い5種が知られています。これらの菌は腐生性が強い種です。オニノヤガラは種子発芽から幼株まで共生する菌と、その後親株にまで生育させる菌とが異なることがわかっています。発芽の時はシロコナカブリと共生し、薬草として栽培している中国では2種の菌を使い分けているそうです。
 ツチアケビは巨大な地下組織を有する植物で、種子発芽は周囲の菌の産生する気体により促進されるとのこと。やはりナラタケと共生しますが、実生苗はタマチョレイタケ目の菌から栄養をもらっているそうです。
 ここでタシロランについて少し詳しく話されましたが、北海道にはないので飛ばしてトラキチランです。中部日本からユーラシア大陸全域という広範囲の冷涼な地域の林床に自生する菌従属栄養植物で、主としてセイヨウトマヤタケが共生する針葉樹の根元に出るそうです。そこでは樹木、トラキチラン、菌根菌が3者で共生しているのだそうです。広域に分布する多くの菌種と共生することが可能で、主食とおかずの区別もあるとのことでした。
 サカネランは外生菌根菌と共生する菌従属栄養性種ですが、フタバランは腐生菌と共生する独立栄養性種で、サカネラン属の中に緑色葉を持つ種と無葉緑種があります。菌根菌の分子同定により外生菌根菌からの安定した養分供給が無葉緑化を可能にしたと考えられています。 最後はムヨウラン類です。DNA解析(ITS領域)では違いが出ない種の間でも、共生菌は違う場合があるそうです。かなり詳細な研究を行ってこられたようでしたが、時間の関係で説明をはしょってしまったのは残念でした。
 ラン科植物は日本に約300種自生していますが、200種以上が希少種になっているそうです。それぞれに独自の菌根共生系があり、特に養分の多くを菌根菌に依存する種は、自生地内保全は勿論ですが、移植・増殖が困難な種が多いため、保全・増殖に向けた種ごとの生態的知見の集積が急務とのことでした。

文責:新田

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