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■2017年3月11日に行われた北方山草会講演会の要旨(2017.3.15)

 今年の演者は当会若手のホープ、佐藤広行さんですが、「北日本産のイネ科ノガリヤス属の分類学的研究」といういかにも難しそうな演題だったので「イワノガリヤスとその仲間たち」と優しげな副題が追加されています。
 佐藤さんは普段、高橋会長の手足となり、日々北大総合博物館で標本の整理と主としてイネ科の研究をしています。最近、平凡社から出版された改訂新版日本の野生植物で、イネ科を分担執筆している実力者です。最近の研究で、専門としているイワノガリヤスの仲間についていくつもの新知見があったのでまとめて紹介してくれました。
 構成は「背景と目的」、「新産のアムールイワノガリヤスと新品種のアッケシイワノガリヤスの解説」、「ノガリヤス属の種間雑種」、「イワノガリヤスの分類学的再検討」の4部+余談からなっていました。
 まず背景と目的ですが、イネ科の分類では形質や倍数性など非常にややこしいことが多く、さらに北海道周辺ではロシアとの見解の相違もあり、話をさらに複雑にしているので、ひとまずは基本的な構造(左図)だけでも頭に入れておいて下さい。
 次は本題です。道東の湿原には見慣れないイワノガリヤスの仲間があるそうです。見慣れないと言っても素人目には見慣れたイワノガリヤスとそれ程違いません。これまで日本ではイワノガリヤスは1種とされていましたが、左図左の写真では1つ上の図で第一包穎、第二包穎と書かれている部分に長い毛の様なものが見えます。また、右写真では、やはり1つ上の図で葉鞘と書かれている部分にはっきりとはしませんがもやもやと毛の様なものが見えます。

 この植物に近いものとしてハバロフスク地域の固有種とされるCalamagrostis amurensis Probat.がありました。この時点で和名はありません。
 そこで佐藤さんはウラジオストクへ出かけて行き、ホロタイプを調べたそうです。
 結果は左図のように形質が見事に一致し、道東で見つけた植物はこの植物と同じ種であることがわかりました。この植物にはアムールノガリヤスと新称を付け、さらに基本的な形態がイワノガリヤスの範囲を超えないという判断で C. purpurea (Trin.) Trin. subsp. amurensis (Probat.) H. Sato et Hideki Takah. とイワノガリヤスの亜種としました。
 話はこれで終わらず、左図のようにアムールノガリヤスと同じ特徴を持つが、(a)のように小穂と柄の接合部や(b)(c)のように花序の枝の基部に毛状の突起を持つ植物があったので、アムールイワノガリヤスの新品種アッケシイワノガリヤス C. purpurea subsp. amurensis (Probat.) f. akkeshiensis H. Sato et Hideki Takah. として記載しました。

 ここで一つ目の余談です。学名の後ろには命名者が記述されますが、よく L. などと省略されています。また佐藤さんなど同姓が沢山いる場合もどこまで示せば区別がつくのか不思議に思います。それを管理しているのが左図の International Plant Names Index とのことです。ここで例えば佐藤広行さん Sato Hiroyuki はH. Sato と、高橋会長は Hideki Takah. と省略されることになっています。
 話はノガリヤスに戻ります。
 道東のイワノガリヤスと、チシマガリヤスの分布が重なる湿原では雑種と思われる植物が見られるそうです。気をつけて見てください。
 また余談です。
 染色体観察の練習をするためにタマネギを水栽培して根の先を材料にしていましたが、用が済んだ後もそのまま栽培を続けてみたとのことです。
 やがてタマネギはしぼみ、悪臭がしてきますが皮をむいてみるとこの様に子球に分かれていました。
 球根の特徴
球根は、複数の葉が地中で肥大化して作られ鱗茎(層状鱗茎)という。
毎年新しい子球ができ親球は消滅する。
球根は何年も保存することができない。
 最後の話題です。
 日本とその周辺ではイワノガリヤスの近縁種、種内分類群が4種類知られていましたが、それらを再検討したそうです。
 各部位の数値が示されていますが、どうも怪しいので定性的な形質を検討した結果、左図の葉鞘上端の毛に基づいて2品種にまとめられることが分かったそうです。
 その過程では、桿が分枝する形質も検討しましたが、栽培実験の結果、環境要因によって生じた変異であることが判明したそうです。
 これで本題は終わりでしたが、裏話が続きます。
 今回の研究では薬品処理が必要だったので、ドラフトという換気装置のようなものを使ったのですが、本物は動かなかったので自作したもので間に合わせたそうです。あまりお薦めはできませんが、研究の中にはこの様な苦労もあるというお話しでした。

(画像提供:佐藤広行、文責:新田紀敏)

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