報告のページ

2月22日 門田さんとの情報交換報告 於:福久楼
 当会でもおなじみの、門田裕一さん(国立科学博物館植物研究部)が北大の標本調査に来道された機会を利用して、新しいアザミの分類について情報をいただきました。当初、オープンな形式の講演会としたかったのですが、残念ながら場所を確保できず、少人数での会合となってしまいました。
 内容は、12種のアザミ(○をつけたもの)について触れ、そのうち8種が新しい分類かその可能性濃厚という多くの会員が関心を持つであろうものだったので、簡単にレポートします。

 はじめに、門田さんはアザミの研究を24年間続けているそうで、まさにライフワークとされているとのこと。従来、チシマアザミとエゾノサワアザミにざっくりと分けられていたものを見直し、便宜的に、
1、葉の切れ込みが浅く大型で頭花を下向きにつけるもの
2、葉の切れ込みが浅く小型の頭花をつけるもの
3、葉の切れ込みが深いもの

に再編し、さらにその中を検討したとのことでした。

 基礎知識として根生葉の性質や花の構造についてやや詳しい解説がありましたが、図がないとわからないのでここでは省略します。

各論
1 葉の切れ込みが浅く、大型で頭花を下向きにつけるアザミ
○チシマアザミ、○コバナアザミが含まれるグループ。

○カムイアザミ(新種)右写真(クリックで拡大)
チシマアザミと混同されていた。
夕張岳から日高山脈、襟裳岬まで分布。日高山脈の十勝側にもあるのだろう。
葉は鋸歯縁となり、切れ込まない。
総苞片は8〜9列で、総苞外片は梅沢さんの言葉を借りるとあばれまくる。総苞片には肉眼で確認できる、白い腺体がある。 雌株の頭花は濃いピンクになるのが普通。

 チシマアザミが高山に分布するのに対して本種は山地から低地に分布する。夕張岳であれば、冷水コースの水場付近はカムイアザミ、前岳には両方、高山帯にはチシマアザミが分布する。このように、カムイアザミとチシマアザミは垂直的に棲み分けている。

○ソウヤアザミ(仮称)
宗谷岬の駐車場付近に普通に生えるアザミ。
宗谷岬とその周辺から南は幌延までの日本海側に分布。
腺体がはっきりしていることはコバナアザミと同じだが、葉下面にクモ毛がないこと、そして雌性両全性を示すこと(=雌株が存在する)などで異なる。コバナアザミ(基準産地は北音威子府)との異同についてはさらに検討が必要。

2 葉の切れ込みが浅く、小型の頭花をつけるアザミ
○アサヒカワアザミ(新称)
旭川から士別にかけての狭い範囲の蛇紋岩地に分布し、草原に生える。2n=68 両全性
葉は大きく厚くて柔らかい。
頭花は道産のアザミとしては非常に小型で、総苞片は9?11列 腺体が粘ることもある。
コバナアザミの系統である。

3 葉の切れ込みが深いアザミ
 分類が難しく、○エゾノサワアザミ(2n=34)と一括りにされていたもの。大型で頭花を下向きに付ける。

○エゾノミヤマアザミ(いわゆるミヤマサワアザミ)
大雪と知床に分布 2n=34(チシマアザミは2n=68)
高山に生え、雌性両全性。花期に根生葉があり、葉は柔らかい。葉の切れ込み方もエゾノサワアザミとは異なっている。
頭花は大型で単生する。
花は濃いピンク(雌性花)、総苞片は10列以上ある。

従来「ミヤマサワアザミ」として低地に生えるエゾノサワアザミの高山型として認識されてきたが、本種は独立種とみなすべきである。そこで、和名もオリジナルのエゾノミヤマアザミ(小泉源一)に戻したい。

○エゾマミヤアザミ(新種)
根室地方の高層湿原?国後島に分布
両全性で花期には根生葉がある。葉は全裂。
総苞片は8列で腺体は痕跡程度。ストロン*を出す。
頭花をぽつんと一つ付ける。
なお、サハリンから記載されたマミヤアザミはエゾノサワアザミの異名であることが明らかとなった。

*ストロン:根際から、この場合は地下に伸びる茎。途中の節から根を出して成長する。

○チカブミアザミ(新種)
神居古潭から嵐山にかけての蛇紋岩地のみに分布し、林縁に生える。
両全性で花期には根生葉はない。
エゾマミヤアザミによく似るが、生育環境に違いがあるほか、ストロンを出さない点で明瞭に異なる。

○テシオアザミ(新称)
茎や葉が赤紫色を帯び、いかにも蛇紋岩植物らしいアザミ。
両全性で、花期には根生葉はない。
大型の頭花を単生させる。
幌加内、幌延、中頓別の蛇紋岩地に分布し、草原に生える。2n=34
添牛内ではアサヒカワアザミと同所的に分布するが、花期がそれより一ヶ月以上早い。

※ここまでをまとめると、神居古潭帯の北半部において、北からテシオアザミ、アサヒカワアザミ、チカブミアザミが比較的狭い場所で連続的に置き換わりながら分布していることとなる。

○ネムロサワアザミ(?)
根室地方のみに分布。納沙布岬駐車場の脇にある。2n=68
典型的な○アッケシアザミ(2008)とは、頭花の基部に苞葉を欠くことのほか、葉の質や切れ込みの深さが有意に異なるので、仮にネムロサワアザミと呼んでいる。現時点では、仮称ネムロサワアザミはアッケシアザミの範疇に入れるのは無理と思われる。ネムロサワアザミの形は歯舞諸島からは得られていない。


 今回確定した新種・新称は近く出版予定のアザミ図鑑に載せられますが、仮称のソウヤアザミやネムロサワアザミなど(まだ出てくるかもしれません)はまだ数年の調査が必要との事でした。

 アザミの話の後、「氷河時代と日本の高山植物」と「東北地方産トウヒレン属の分類」がおまけについていました。

トップページへ

inserted by FC2 system